巳の話


巳の話

巳は己れの尾を噛んだまま、已に数百年も海の底で眠っていた。微睡みながら巳は夢を見た。夢の中で巳は己の尾を噛んだまま、已に数万年も海の底で眠っていた。

微睡みながら巳はふと考えた。自分はどうしてここにこうして居るんだったっけ? たしか悠久の昔に何かを護るためにここで眠りについたような。

尾を噛んだまま考える。己はこうして尾を噛んでいる限り不死であり永遠である。だがこの永遠に何の意味があろうか。試しに目を開いてみると、己れの身体が大きな木に結びつけられているのが見えた。これはまたヘビーな状況だな。そうひとりごちた。そうか、己はこの木に結びつけられたまま身動きとれず、己れの尾を噛んで一眠りと決め込んだのだったか。誰が自分をこの木に結びつけたのだったか、もはやそのような記憶も薄れてくるほどの年月、ここでこうしていたのだった。身体をあちこち動かしてみる。と、思ったほどの締め付けもなく、ゆるゆると身体が動くことがわかった。長年の歳月で少々身が細ったのか、それとも微睡みの中で力が抜けて身体が緩んだか。

巳は己れの尾を口から吐き出し、已に数万年眠り続けた身体をそろそろと前に這わせた。とするりと身体は抜けて、結び目は解かれた。やれ、ありがたや。巳は腹いせにぴしりと尾で木を打ち据えると、ゆるゆると海の底を泳ぎだした。巳の行方は誰も知らない。 こうして永遠の不死を解かれた世界樹は今また新しい花を咲かせ、人類に新たな叡智をもたらすこととなる。

しかしこれはすべて、己の尾を噛んだまま数百年眠る巳の夢の中の出来事である。

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