すべてを記憶する――とりわけ、大切な友人のことを。(十億の記憶とファーリーの孤独)


『太陽系帝国の危機』とファーリー・ファイル

私の大好きなSF作家ロバート・A・ハインラインに『太陽系帝国の危機』という作品がある。

1964年に創元推理文庫から出ている。そのためかちょっと訳が古いんだけど(タイトルからして古いね)、現在では『ダブル・スター』というタイトルで新訳が出ている。こっちは、私は読んでないけどね。

この『太陽系帝国の危機』に「ファーリー・ファイル(farleyfile)」というファイリングシステムが登場する……一つの情報データベースだ。

主人公の役者は、太陽系帝国大統領ボンホート氏の身代わりを演じることになり、そのための練習を積むのだけれど、大統領秘書のペニー嬢がこの情報データベースを教えてくれる。
以下、本文を引用しようと思ったが、日本語があまりに気になるので、若干手直しをさせて頂きつつ引用する。

それは、ボンホートが、その長い公的生活のあいだに会った何万、何十万という人間の全部、ほとんど全部についての記録を含んでいた。(中略)いつでも、まず第一に記入されていたのは、細君や子供、愛玩動物の名前とあだ名、道楽、食べ物や飲み物についての好み、先入主、偏執等の些細な事柄だった。それに続いて、ボンホートが、その人物と会ったあらゆる場合についての、日付け、場所、解説が記されていた。
(中略)
「これを全部覚えるなんて、誰にだってできない相談だよ」
「そりゃ、そうよ、もちろん。覚えられるもんじゃないわ」
「だって、きみは今、これは、あのひとが友人や知己について覚えていたことだと言ったじゃないか」
「そんなことは言わなかったわ。わたしは、あのかたが覚えておきたいと思ったことだ、と言っただけよ」
(中略)
「あなたは友だちの電話番号を、書きとめておいたことがあるかしら?」
「え、むろん、あるさ」
「それは誠実さが足りないということじゃない? あなたは、電話番号すら覚えられないほどその友だちを軽く見たことについて、謝罪をするの?」
「なんだって? わかった、参ったよ。してやられた」

この後続けてペニーは、政治家があまりに多くの相手に出会うこと、相手の些細なことを心にとめ、それを大切にすることが相手への大切な礼儀であり、友情の証であり、温かい気持ちを伝えるすべとなる、と説明する。
このファーリー・ファイルの原理には、実に共感できる! もしも、ちょっと前に、あるいはずっと前に出会った時のことをちゃんと覚えていてくれる人、自分の好みや、自分のペットのことをよく覚えていてくれる人がいたら、好意を持たずにはいられまい。少なくとも、すっかり忘れている相手よりは、ずっといい。

とはいえ、私は政治家ではないから、ボンホート氏のように、会う人全員の情報データを細大漏らさず書き留めておく必要はないだろう……ボンホート氏のようにそれ専用の秘書を二人雇えるならともかく。

 ジム・ファーリーとは誰か?

ところで、長らくこの「ファーリー」なる人物が正確にどのような人物なのか、そもそも本当に実在するのか、「ファーリー・ファイル」というのはどんなものだったのか、情報を探していたんだけれど、見つけることができずにいた。webの大海を検索しても見つからない情報というのは、ままあるものだが、ひょんなところから発見した。D・カーネギー『人を動かす』の中に「ジム・ファーリー」の逸話が登場する。

そのおかげで、やっと実在する「ジム・ファーリー」の正体を確認することができた。
James Aloysius “Jim” Farley (May 30, 1888~June 9, 1976)
James Farley – Wikipedia, the free encyclopedia

しかも、Faley fileの項目では、ちゃんとハインラインにも言及されている!

The Farley File figures prominently in the Robert A. Heinlein novel, Double Star, in which an actor impersonates a major political figure. He is able to extend the impersonation into personal encounters by use of the politician’s Farley File.
→via Farley File – Wikipedia, the free encyclopedia

 Evernoteとファーリー・ファイル

さて私の場合に話を戻す。以前は、毎日記録のようにしてつけていた日記がファーリー・ファイルに近い役割を果たしてくれていたんだけど、次第にweb上で知人の実名(あるいはニックネームであっても)を公開して行動を記録していくことにはリスクがあると思うようになり、イニシャルトークにした途端、実用性がガクっと下がった。検索してもまったく出てこないので、知人に関する外部記憶としては精度がかなり落ちる。

そういうわけで、いつしか“すべてを記憶する”がそれにとって代わった。友人の名前でノートを作成し、そこに以下の情報をまとめることにした。

  • 知り合った経緯(最初に知り合った時期、機会・場所・組織)
  • 基本情報(相手の住所や電話番号など)
  • 経歴、歴史(主に自分と知り合う前のこと)
  • 履歴(一緒にやったこと、連絡したこと、物品のやりとりなど)
  • 本人の発言、考え方、好み、志向、一番の関心事
  • 露出、メディアへ出た記録(めったに使わないけど)
  • 目的、目標、夢
  • 製品、プロダクト(友人の仕事や夢に関わる成果物)

こうした情報をまとめておくことで、いつでも読み返すことができる。

まだあんまりすごく役に立ったと思う瞬間はない。たぶん、そんなに無数の人に会うわけじゃないから。覚えていられないほどの人に会うわけでもない。たまーに会う人については、逆に書き留めるのを忘れちゃうことの方が多かったり。よく知ってる人については、書き留める必要を感じなくてついついまっさらだったりとか。

ただ、時々ふと、友人の情報を読み返すのは、なかなか面白い。これを見ながら、次に会ったら何を話そうかなー、と思いを巡らすのも楽しい。

 

2件のコメント

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