子の話


子のヤツの話しぶりは、国文法の教師を思い出させる。文節を区切って喋るあのしゃべり方だ。
「あの『ねずみの嫁入り』とかいう話ね、アレはちょっとねずみ一族を馬鹿にしているね。そう思いませんか」
「そうかねぇ」
「そうですとも」
子はピョンと飛び上がって主張した。
「ねずみが一番の婿を探してね、太陽だ、いや雲だ、風だ、壁だ、最後にはねずみ同士が一番だね、って言うんでしょう。ね? 了見の狭い、同族結婚じゃありませんか。そこをね、あえて壁と結婚する、今まで壁をかじって悪かったこれから仲良くやりましょう、それが歩み寄りってもんじゃないですかね」
「なるほど」
「結婚ていうのはね、異文化交流ですよ。まったく異なる二人が一緒にやっていく、ね、そこが醍醐味じゃないですか。そう思うでしょう? ね?」
「僕も春に結婚するんです」
「そりゃめでたいね!」
「彼女といるとびっくりすることばかりですよ。まさに異文化で」
「そうでしょう、そうでしょう。私もね、ずいぶん昔にね、結婚して、最初はそりゃいろいろありましたよ。でもね、今じゃもう、ね、一心同体ですよ」
そのとき、壁の中からすごいうなり声が聞こえて、僕は、それがねずみの鳴き声だということに気づくのに一瞬かかった。怒鳴り声のようだ。子は弾かれたようにピョン、と飛び上がった。
「あ、あー、その、ね、妻が呼んでるみたいで。結婚生活、いいですよ、ホントね」
「信じますよ」
「うん、うん、ね、あのう、いつもこんな時ばかりじゃないんです。昔はずいぶんと、あれも可愛くて……」
もう一度うなり声が聞こえて、今度こそ子は縮み上がった。
「もう、行かなくちゃ。ね、結婚、いいもんですよ。おめでとう。ね。今年もよろしく」
言うが早いか、子は壁の中に消えた。僕は子の残していった杯に向かって「今年もよろしく」と乾杯をした。壁の向こうからもう一度、すごい怒鳴り声が聞こえてきて、僕は肩をすくめて杯を飲み干した。

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