卯の話


月面に卯――つまり兎――がいるとわかったのは、昨年の暮れのことだった。


もちろん、彼らは厳密には兎ではない。月面人だ。より正確を期するなら「月面」人ではなく、月地底人である。彼らは月の地底深くに住んでいるので、これまで発見されなかったのだ。彼らは体毛を持ち、長い耳を持ち、赤い目をしていて、二足歩行する。八頭身のバッグス・バニーと言えばいいだろうか。
彼らの発見は「月に住む兎」の伝説に現実的な信憑性を与えることになったが、いくつかの謎は残った。なぜ古代日本人は月に兎が住むことを知っていたのか? なぜ月の兎は餅つきをすることになっているんだ? 彼らの生活は未だ謎に包まれており、その食料に餅に似たものは見つかっていない。
謎を解決しようにも、月兎たちはけんもほろろだった。頑なに地球人との交流を拒み、月世界に侵入した人間は厳罰に処するとの鉄壁の意志を表明していた。よくよく嫌われたものだが、その状況にもかかわらず多くの企業が産業スパイを送り込んだ。月兎たちが保有する、莫大な地下資源が目的だった。だが一人として帰ってこなかった。
そして俺も、そんな産業スパイの一人として潜入し、あえなく彼らに捕獲されてしまった(彼らは月の重力に適応しており、恐ろしく足が速いのだ!)
三月兎の弁護人のとんちんかんな弁護も虚しく、俺は有罪となった。白兎の裁判官が懐中時計をちらちら見ながら判決を下した。
「被告には10年間の強制労働を命ずる。刑は即時発効となる。廷吏は被告に必要な作業具を支給し、即座に強制労働に従事させるように」
八頭身の兎廷吏が立ち上がり、作業具を持ってきた――杵にそっくりな作業具を。
俺にもまだ詳しい事はわからないが、一つだけわかった……どうやら古代日本人は、月世界で強制労働の経験があったらしい。

■一年前の日記
寅の話

 

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