申の話


「申(さる)でもわかる英語講座」に申が通い始めた時には、僕も少々虚を突かれた。だってお前、あれはあくまでももののたとえで……と言いかけたのをぐっと呑み込んで、申がキキとして英語を学ぶ様を眺めることにした。

しばらくして、申に英語の進捗を尋ねてみた。彼はシブい顔をしてもごもごと、まあね、そこそこね、と言い訳をした。やはり、申には英語が難しかったのだろう。だが彼は自分を正当化しようと、英語に難癖をつけ始めた。

申は存在を表すBe動詞がどうも気に入らないという。

「たとえば、『彼がいる』は『He is.』なんだよ」と彼は憤慨したように言った。僕はそれのどこが悪いのかわからない、と言った。申は
「いる者のことを『is(居ず)』というのはおかしいじゃないか。こんな非合理な言語はないよ」と憤懣やるかたないといった様子だ。

僕はしばらく彼が英語を非難するのにまかせていたが、ふと、くだらない冗談を思いついて反論した。いやいや、英語にも合理性はあるよ、と僕は言った。彼はいったい英語のどこが合理的なんだ、そんな例があるなら教えてくれ、と反問した。思うつぼだ。

「だって、その彼が立ち去ったら『He was.』になるじゃないか。ことわざにも、去る者はwas(ワズ)、と言うだろう」

申はポン、と手を打って納得した。所詮は申だな、と僕はため息をついた。せっかくの冗談が通じない。
申の話

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