仕事で考えをまとめるときに、手になじむドローソフトが欲しいと思う時がある。あるいは、新人に仕事の説明をする資料を作る時にも。文字と図形と線をさらさら書けて、それがちゃんとつながって、できれば印刷もできて、見栄えよく仕上がるといい。
考えをメモする(あるいは議事録を取る)ためのアウトラインエディタとしてはMindMap、というか今私が使っている「Freemind」が十分に便利なのだけれど、やはり描画的な意味では限界を感じる。
社内のITリテラシーを一身に背負っている身としては、社内にこうしたツールを標準化したいという気もするので、自分が使いやすいだけでなく、誰でも使いやすい普遍性というものもある程度加味したい。社内の図面が、全部違ってしまっているのはやはり不便だ。技術課ではCADを使っているので、それに統一できればいいのだが、そういうわけにもたぶんいかないのだろう。値段とか、何かそのようなことで。
自分のノートPCにガリガリとインストールして使用感を調べているうち、しまった、これは格好のブログネタだと気づいたので、あわててメモをとった次第。
結論から先に言うと、スピーディなフローチャート作成としてはyEdが抜群。描画と汎用性という意味ではOpenOfficeが安定の選択。先進的という意味ではCacooかなという気がする。あとは情報ツールとしての期待感で言うならOneNoteか。
有料でも「確実に誰にでも価格分の価値をもたらしうる」という自信を持てるものがあれば、有料でもいいと思っていたのだけれど、そういうレベルのものはあまりなかった。あえて言うならCacooだろうか。しかしずっと払い続けるというのもつらいかも。
オススメできる順に掲載。もちろん、あくまでも主観に基づくものなので異論は認める。
ちなみに印刷機能までは試していないので、手落ちと言われたらその通り。今後追加情報が出た場合は、追記するつもり。
試用環境はWindows7。VAIO typeZ VPCZ1なので、遅いマシンではないと思う。
■yEd
yEd – Graph Editor
無料 操作性:直感的◎ 動作:快適 英語
フローチャート作成ソフトとしては非常に高機能。ドラッグでさらっとそのままコネクタを引いて図形同士をつなぐことができ、図形ダブルクリックで文字を書き込むことができるので、スピーディ。スピード重視の操作系なので、一瞬戸惑う(図形を動かそうとするとコネクタが出ちゃう)が、すぐ慣れるレベル。標準の図形パーツも使いやすそうなものが揃っている。
webサイトに90秒の動画があるが、これもなかなか見事。使いこなすとここまでなるというのは、楽しみな感じがする。
標準ファイル形式がgraphml形式という、見たこともない拡張子になるのはご愛敬。
これだけ直感的な操作なんだったらキーボードだけでノード追加とかできないかと思ったのだが、今のところそういう使い方は発見できてない。英語なのでよくわからないメニュー項目もあるけれど。
■OpenOfficeDraw
図形描画(Draw)
無料 操作性:一般的○ 動作:快適◎ 日本語
今回、誰にだって安心して勧められる選択肢が、おなじみOpenOfficeのDraw。MSOfficeの安価な代替品として人気のあるOpenOfficeだが、Word相当の「Writer」やExcel相当の「Calc」に焦点が当たり、この「Draw」はあまり話題に上らない。
以前Drawをインストールして動作が遅いイメージがあったんだけれど、今回それを見事に払拭した。軽い。起動も速い。Javaが成長したのかOpenOfficeが成長したのか、その両方? これはかなり意外だった。
操作系はいたってフツー。何のおもしろみもないが、その分誰でも安心して使える。
■Cacoo
Cacoo – Web上で図の作成とリアルタイムコラボレーション
無料(25文書まで)/有料(480円/月 or 4,800円/年) 操作性:直感的◎ 動作:快適○ 日本語
クラウドのドローサービス。操作感が直感的でわかりやすく、なおかつスムーズに覚えられ、新世代といった感じ。web上に図形を保存するクラウドサービスという点でも、先進的。無料だと25枚の制限があり、自分の今の経済力からして有料プランはあまり気が乗らないのだが、複数のPCで使うことを考えるなら、年間4,800円はむしろ安いかもしれない。私自身は自分のノートPCでしか使わないので、割高な感じになる。
有料ということだけ除けば、文句なく採用できそうな便利ツール。とはいえ会社全員分のアカウントを用意するかと言われたら、ちょっと二の足を踏む経費かなぁ。そこまでメインの業務ツールでもないし。
今回ドローソフトをいろいろ調べ始めたことの発端は、ChromeストアのCacooが使いやすかったことだった。「これと同じくらい便利でもーちょい安く抑えられないか」ということが動機だったんだけど、現時点ではちょっとそれは難しそう。
「オフラインで使えない」というのがデメリットになるかどうかは接続環境次第。最近は、いつでもどこでも常時接続という人も多いしなぁ。
■SimpleDiagram
無料(機能制限)/有料(25$) 操作性:直感的◎ 動作:快適◎ 英語
無料版はデータを保存できないという悲しい制限がある。都度JPGで書き出して使うこともできるけど、後で再編集できないというのは継続的使用には無理。無料版は一発ネタ、あるいはあくまでも試用のみと考えるべきなんだろうな。フルバージョンは19$。決して高くないと思うし、曲線をさらっと書ける操作性はかなり手になじむ。機能面では「コネクタがない」など物足りない部分もあるけれど、思考ツールとしては非常にいい線を行っていると思う。黒板風の外観も(変更できるけど)、何かほっとする感じでいい。ちょっとしたことだけど、他にない良い特色。
機能面で物足りないので、yEd、OpenOffice、Cacoo辺りで満足なら必要なさそう。でも贅沢ができるなら、ぱっと25$払ってPCに入れておきたい感じの楽しいドローソフト。
■DiagramDesigner
無料 操作性:一般的○ 動作:快適○ 日本語
yEdが見つかるまで最有力だったのがDiagramDesigner。操作性はシンプルでわかりやすい。ちょっと独自性があるとすれば、ツールボタンの上でマウスホイールを回すと数値を変えられる操作。たとえば線の太さを変えるボタン、クリックして太さを数値入力することもできるけれど、マウスを重ねてホイールを回すだけで、太さを自在に変えられる。これは意外と便利。
素材もシンプルで使いやすいフローチャートや矢印などが揃っている。インストールパッケージの中にかなりの種類が用意されている。
華はないけど難もないソフト。会社で標準採用するには継続性がやや不安かな。
■Jw_cad(JWW)
Jw_cadのページ
無料 操作性:独自△ 動作:快適もっさり◎○△ 日本語
社内での標準化ということを主眼に置いた場合、CADソフトが選択肢に入ってくる。うちの技術課は設計にCADを使用しているからだ。いくらぐらいするどんなソフトを使っているのか知らないが、安価で入手できるものがないかと調べてみたらJw_cadに行き当たった。DOS時代からあるという由緒あるソフト。使い勝手と無料でCADソフトの歴史を塗り替えたとさえ言われるらしい。
かなり独自の操作系を持っていて、慣れるのに時間がかかりそう。こういう独特の操作系を工夫して、ユーザーがそれに習熟する(つまり、身体を仕様に合わせる)という流れは、一昔前のソフトだなと感じる。
たぶん慣れればすごく速いんだろうけど、会社でこれを標準的に採用するのは難しそうかな…。個人的にもこういう操作系を一から覚えるのはちょっとしんどい。
市販の低価格CADっていくらくらいすんだろ。
■DynamicDraw
Dynamic Draw
無料 操作性:独自△ 動作:快適◎ 日本語
これもかなり以前からあるフリーのドローソフト。操作に若干クセを感じる。使いこなせばかなりのことができるはずだけれど、これに慣れるのちょいしんどいかな。
■Dia
Dia a drawing program
無料 操作性:一般的○ 動作:やや独自△ 日本語
OpenOfficeやInkscapeと同じ、Unix系出身のフローチャート作成ソフト。操作自体はInkscapeより軽いが。コネクタの種類もたくさんあり、「円弧のコネクタ」などは手軽で使いやすいと感じた(精細に描きたい場合にはベジェのコネクタもある)。
書類ウインドウの下に真っ黒なコンソールウインドウが開き、そこがどうも本体であるらしい。書類ウインドウを閉じてもソフト自体は終了しない。
■Inkscape
Inkscape. Draw Freely.
無料 操作性:一般的○ 動作:もっさり△ 日本語
「AdebeIllustratorキラー」とまで言われたドローソフト。動きにもっさり感あり。私が以前のOpenOfficeDrawに持っていたイメージはInkscapeが近い。画面の再描画が遅く、操作をするたびに、ほんの一瞬、待ちがある。じゃあ本当に時間がかかっているのか、と言われたら、たしかに大した時間ではないのだが、「ドラッグ中も半透明で描画」みたいな環境に甘やかされた私には少々ストレスになる。
Mac、Unixでも無料で使えるマルチプラットフォーム環境ということにはそれなりのメリットがあると思うが、今の私の必要には合わない。
ちなみにコネクタないかと思っていたが、コネクタちゃんとあった。
■OneNote
Microsoft OneNote 2010 – Microsoft Office
有料(10,000円前後?) 操作性:一般的○ 動作:もっさり△ 日本語
マイクロソフトが作ったデジタルメモソフト。描画性能という意味ではまだあまり大したことはできない、とわかった。コネクタもないし。
メモソフトとして見ても動作がもっさりしており、まだ完成度が低い。ただし目指している方向としては非常にまっとうでマルチメディアでドリーミーで期待大。
似たソフトの「Evernote」では、情報は「テキスト」と「インク(手書き)」とにきっちり分けられ、それ以外は外部ファイルの添付という形で情報を保持するようになっている。つまり「情報整理・管理」というところに重点が置かれている。一方OneNoteは、テキストも画像も表組みも何もかも、1枚の紙の上に並べる感覚で「切り貼り」できる。つまり「情報の編集」が特徴的で、ビジュアルに訴えかける強い力を志向している。もし完成度が上がると、Evernoteを越えるかもしれない。
■評価対象外
◆LucidChart Cacooと同じクラウド系ドローソフトだが、デフォルトフォントで日本語通らず。いちいち日本語を使うたびフォントを設定するわけにもいかない。解決方法があれば評価対象になるんだけど。
◆CorelDrawEssentials 以前WindowsXPで使っていたが、英語版を無理に日本語にした印象があり、やや不安定。機能的にも物足りないし、ヘルプも不親切(たまに上位版の機能が書かれている)。あとちゃんと金を出して買ったソフトなのに、上位版への広告が常に表示されるのは客を馬鹿にしている。Windows7に入れたらより不安定になったが、アップグレードする気にならない。
◆VISIO 有料。025k以上。今回実際には触っていない。ビジネスでよほどメイン業務で活用するつもりでなかったら、025kは出せないかな…。
※なお、資料のような複数ページものを編集できる編集ソフトも低価格で手になじむのが欲しいんだけど、CorelDrawは前述の通りだし、Scribusはまだまだだし、Wordは操作性が悪いし、低価格で信頼できそうなのが見当たらない。