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「この世界のルール」——千と千尋の神隠し

Jiufen Taiwan

3歳の頃、娘がドハマリしていたのが『千と千尋の神隠し』である。(ディズニー『眠れる森の美女』もよく見ていた)。

一緒に見ているといろいろ考えたくなるのが、この話の面白いところだ。

この世界のルールって何だ?

終盤、こんなやりとりがある。

湯婆々「でも坊や、これは決まりなんだよ」
千尋「掟のことはハクに聞きました」
湯婆々「いい覚悟だ」

ここでは、この「決まり」「掟」について言及されない。坊に「ばあばのこと嫌いになっちゃうぞ」と脅されても、湯婆々は「決まり」を翻すことができない。

湯婆々と同程度の力を持つ銭婆も「決まり」について言及している。

銭婆「あたしにはどうすることもできないよ。この世界のルールだからね」
「あんた一人でやるしかない、両親のことも、ボーイフレンドのことも」

この発言は、「両親を取り戻す」と「ハクの真名を取り戻す」が共に「この世界のルール」に縛られていることを示唆している。

(神々を除けば)この世界での実力者の双璧である湯婆々も銭婆も、「世界の決まり」に逆らうことはできない。では千尋を縛り、ハクを縛り、湯婆々も銭婆も曲げられない「決まり」とはいったいなんだろうか?

真名のルール

ハクの真の名に関するルールは、ハク自身から説明されている。「湯婆々は名前を奪って支配する。名前を奪われると帰り道がわからなくなるんだ」これが一つのルールである。

終盤でハクは、千尋の助けにより真名を思い出すことができた。上記の言葉に照らせば、ハクは「帰り道がわかる」ようになる。千尋との別れに当たっても、ハクは明るく「湯婆々の弟子をやめる」「またきっと会える」と告げる。どのような形であれ、彼は「帰り道」をたどって、また人の世に戻ることができるのだろう。

真の名のルールというのは『千と千尋の神隠し』に限らず、広く世界で知られた呪的ルールであるから、特に珍しいものではない。

湯婆々との契約で、千尋は自分の名前を間違えているという指摘がある。小学校中学年の子供が自分の名前の漢字を間違える、というのはあまりなさそうな気もするが、かといって彼女が積極的に名前を間違えるような手がかりも作品中にない気がする。

いずれにせよ、ここで「正しい名前を渡さなかった」ことは、湯婆々の支配から逃れられた遠因の一つになっているようだ。

働く者と働かない者のルール

一方、両親に関するルールはもう少し複雑なように思われる。

両親を豚にしたことについて、ハクの説明はこうだ。「この世界では働かないものは湯婆々に動物にされてしまう」

釜爺もススワタリたちについて、「こらあー、チビどもー!ただのススにもどりてぇのか!?」 「あんたも気まぐれに手ぇ出して、人の仕事を取っちゃならね。働かなきゃな、こいつらの魔法は消えちまうんだ」とがなり立てる。 

これと対になっているのが、湯婆々の誓いだ。
「まったくくだらない誓いを立てちまったもんだよ。働きたい者には仕事をやるだなんて」

この二つは対になってこの世界を支配している。
働かない者は動物にされる。働きたい者には必ず仕事をやる。

ネット上で「湯婆々は意外とホワイト企業/いい経営者だ」という意見を見たことがある。彼女はクレーム客から従業員を守り、よく出来た従業員を褒めて労っている。

実は、彼女が経営者としてホワイトであることも「働きたい者には仕事をやる」という掟から導き出される。

もし湯婆々が、働きたいという者に虐待し、死なせたり辞職に追い込んだりするならば「働きたい者には仕事をやる」という誓いの実効性がなくなってしまう。就職希望を撤回させようと千尋を散々脅しつける湯婆々は、しかし実際に手を下すことはできない。千尋が就職を希望してしまった以上「働きたい者には仕事をやる」誓いに従って、湯婆々は千尋を保護しなければならない。ハクはそのことをよく理解していたのだ。むしろこの方法だけが、千尋を湯婆々から守る方法だったのである。

同様の理由で、湯婆々は、従業員が生活できないほどの低い給与にすることもできない。「働きたい者には仕事をやる」という誓いは、その主旨から言って、「従業員の生活を保障する」ということにつながっている。

両親を元に戻すルール

ただそのルールの中で、動物にされた両親を元に戻す条件が、今ひとつわからない。千尋が与えられた条件は「この12頭の豚の中から、自分の両親を当てる。チャンスは1回のみ。見事当てれば自由になる(契約解除)」というものだった。

なぜ両親を見分けることが契約の解除につながるのだろうか。

千尋がもし失敗した場合には、一体どのような結果が待っていたのだろうか?

その場合、契約書は消滅しないわけだから、千尋は今の待遇のまま、湯婆々の元に止まることになる。同様に両親もそのままであるから、千尋はこの世界に囚われ、元の世界に戻ることはできない。そしてこの結末は、湯婆々や銭婆でさえ、「どうすることもできない」。それがこの世界のルールだからだ。

その場合の次の問題は千尋が「従業員に止まることができるかどうか」であり、カオナシの一件の後で職場放棄をしたと見なされれば、千尋は従業員に止まることができない。職を失い、「子豚にしてやろう。なはは。石炭、という手もあるで」という結末が待っていることだろう。ただこれは恐らく世界のルールというよりは湯婆々の裁量によるのかもしれない。

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