ハーバード交渉学研究所がまとめた研究成果である「原則立脚型交渉」別名「利益満足型交渉」を紹介している本。
ディスカバー『マジビジ5 交渉テクニックを学べ!』の中で参考資料として挙げられていたので読むことにした。
従来の交渉が両者の「駆け引き」「綱引き」であったのに対して、この本はより協調的な交渉のスタンスを提案している。即ち「共同して問題を解決する」「両者が共に満足できる(Win-Winな)解決を探す」というスタンスだ。
そのために必要な考え方と方法論を紹介している。
この本のいいところは、交渉というものをきちんとステップを踏んだ過程に分解して見せていることだと思う。そのため、これまで曖昧なイメージしか持っていなかった人にも、何をすればいいのか、どのようにすればいいのか、きちんとした交渉方法を学ぶことができる。
「相手をだますことなく、損もしない」という正攻法なので、「交渉≒相手を出し抜く」といった悪いイメージを持っている人にもオススメできる。
以下、特に面白かった点。
■交渉の適否を決める3つの基準
- 賢明な合意をもたらすものであるかどうか。(賢明な合意≒当事者双方の正当な要望を可能な限り満足させ、対立する利害を公平に調整し、時間が経っても効力を失わず、また社会全体の利益を考慮に入れた解決)
- 効果的であるかどうか。
- 当事者間の関係を改善し、少なくともそれを損なわないものであるかどうか。
■立場の駆け引きでは、ハード型交渉がソフト型交渉に勝る。
もしハード型交渉者が譲歩を迫り、脅しをかけ、ソフト型交渉者が衝突を避けるために譲歩し、合意を求めるに急であれば、交渉はハード型交渉者が一方的に有利なものになろう。(中略)相手の終始一貫して強硬な交渉に対して常にソフトに応じていたら、身ぐるみ剥ぎ取られてしまうだろう。
■原則立脚型交渉または利益満足型交渉の4つの基本
- 人と問題を分離せよ。
- 立場でなく利害に焦点を合わせよ。
- 行動について決定する前に多くの可能性を考え出せ。
- 結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ。
■対立する利害の背後には共通の利益が眠っている。それを見抜け
買い手と売り手はどちらも取引を望んでいる、など。
■自分の利害がいかに重要で正当なものであるか、明確に相手に理解させるのは当事者の責任である
できるだけ具体的に伝える。
■「なぜ相手はそう主張するのか」を自問せよ
■自分が相手の利害を認識していると示す
それによって、相手も自分の言うことに耳を貸すようになる。
■自分の利害に関して話す時は強硬であるべし
圧力に屈しない。原則や基準にのみ従う
■パイの大きさは一定ではない
交渉が決裂すれば小さくなる。場合によっては大きくなる場合も。
■利害の相違が解決につながる
オレンジの寓話、ジャック・スプラットを参照のこと。
◆オレンジの寓話
一個のオレンジをめぐって姉妹がケンカした。オレンジを半分に分けることでやっと折り合いが付いたが、姉はその半分の中身だけを食べて皮を捨てた。妹は残り半分の中身を捨て、ケーキを作るのに皮だけ使った。
■合意しない場合の最良の案(不調時対策案)が交渉ゼロのライン
最低のライン。これに勝る結果を交渉で生むようにする。
複数の代替案が漠然とある状態は良くない。必ず一つ、最良の代替案を選ぶ。
不調時対策案は徹底的に探す。これが強ければ強いほど、交渉も強くできる。
■決まり文句のリスト
「私が間違っていたら教えてください」
「あなたがしてくださったことには感謝しています」
「我々の関心は公平さにあるのです」
「欲得ずくや力ずくでなく、原則に従って解決したいのです」
「信用するか否かは別問題です」
「私の事実確認が正しいかどうか、二、三質問してもいいですか」
「あなたの行動の背後にある原則は何ですか」
「あなたがおっしゃることを私が十分理解しているかどうか確認させてください」
「もう一度うかがわせてください」
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