非実在の法律に関する、非実在の年代記。
2010年。非実在青少年や非実在犯罪に関する事案が話題に。出版業界からの大きな反発を受けつつも東京都青少年健全育成条例が成立。
2012年。非実在動物愛護団体が設立。「非実在動物の虐待が青少年に与える悪影響を懸念」との声明を発表し、非実在動物の愛護を訴えます。当初は冗談のように受け取られたこの団体も次第に市民権を得て、社会的に強い発言権を持つようになります。
2015年。非実在世界での表現に対する都条例の規制が厳しくなり、出版社が地方を志向するようになります。しかしながら非実在規制の流れは首都圏から拡大。次第に日本全国で規制が当然のものとして受け入れられていきます。この流れは禁煙運動をイメージして頂けるとわかりやすいかと思います。
2018年。非実在器物損壊に関する最初の実刑判決が下されます。被告は漫画家および都内の出版社で、検察側は「被告は非実在器物を損壊しする作品を広く公開し、その中で器物損壊を美化するような表現を行った」と主張。懲役刑が執行されます。
2019年。急速に法整備が進み、非実在宅建取扱法や非実在危険物取り扱い、非実在薬物取締法など、あらゆる法律が非実在に適用されるようになります。当然のように、適用範囲が漫画からゲーム、映画、音楽、小説へと順次拡大され、あらゆる法律違反を美化する表現ができなくなります。青少年への悪影響がありうるためです。モンハン? 非実在銃刀法のことを忘れたんですか? 犯罪を助長する恐れのあるいかなる漫画、ゲーム、映画、音楽、小説も許可されませんよ。時代劇なんて、とんでもない。
2022年。すべての法律は、実在法と非実在法とが存在するようになり、量が2倍になります。当然、法整備に関するコストは2倍になって法曹界を潤し、政府を肥大化させ、国民を圧迫します。
また、我々の世界も実在世界と非実在世界(非リア)の二つに分かれて存在する、という認識が一般化します。それまでにはセカンドライフがフィフスライフくらいになっていて、オンラインにおける生活も実生活と同じくらいの割合を占めるようになっている…かもしれません。ただし、オンライン世界においてもすべての犯罪行為は禁止されます。
2030年。最初の非実在論議から20年が経過した頃、非実在日本国憲法が成立し、非リアにおける憲法違反を助長するいかなる表現もできなくなります。子供たちはのびのびと、非実在犯罪に毒される危険もなく、健やかに育つようになります。これをもって非実在法の整備完了とする見方が主流です。