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『くちびるから散弾銃』岡崎京子

「女の友情」に関する仕事資料として読んだ漫画。岡崎京子版『OL進化論』とでも言うべき、何の気ナシの会話集。つれづれにバラッと読むのに適す。
講談社MeワイドKC。全2巻。※画像およびそのリンク先はKCデラックス版。どう違うのかは知りませんけど。
推薦者:しのはらさん


実は岡崎京子はほとんど読んだことがない。というかこの手の、女性が描いてる「センス」とかそういう形容詞がつきそうなコミックスは片っ端から読んだことがない。安野モヨコも『働きマン』が初だったし、内田春菊はゼロである。そーゆーのって、どうなんでしょう。フツーの男性は、こういうコミックスをどのくらい読むのかしらね。私が読むのと言えば、やっぱりストーリーものばっかりだ。「物語好き」だからかな。

あと、2ページ見開きとかでよくある、コミックエッセイもあんまり読んだことがない。西原理恵子も永らく読んだことがなかったし、青木光恵とかも読んだことがない。というのはきっと、週刊誌とか雑誌を読まないせいだな、うん。

『くちびるから散弾銃』は限りなくコミックエッセイに近いような感じの作品。登場人物はひたすら喋る。三人の主人公はそれぞれ違う設定と視点を持ってはいるけれど、決定的な相違とか断絶とかあるわけじゃなく、結局のところ岡崎京子の代弁者といった感じで、とりとめもないこと、街で見たものについて延々喋り続ける。

で、西原さんのマンガとか見てても思うんだけど、この手のコミックスの共通点は、「観察力」なんだなぁ、と。フツーの人が見過ごしたりしそーなトコを思いきりツッ込む。そこがキモ。『くちびるから散弾銃』も同様で、世間のダサい人たち、踊らされている男女を遠慮会釈なく斬っていく。それを読んで、人は「そーそー!」と喝采を送ったり、「すみません私が悪ぅございました許してください」と慚愧の念を覚えたりするわけである。だから、観察力に加えて、読者が納得するだけのセンスとか無いとダメなわけですね。あるいは、その漫画家のセンスに合う読者だけがついてくる、と。私なんかは当然ながら「すみません私が悪ぅございました」な側なわけで、啓蒙的に読ませて頂いたわけです。ごちそうさま。

あとキャラクターの設定とかが、少年漫画とは決定的に違う気がする。ロリータ趣味な女が彼氏とラヴラヴで遊んでて、イケイケのボディコンシャスな女が処女であんまり男にキョーミナイ、みたいな設定は、少年漫画ではあまり典型的とは言えない(ゼロではないけど)。こういうのが、女性的視点からしてリアルなのかもしれない。少年漫画にありがちな思い込みというのが、いかに強固に自分を支配しているかというのがわかって凹まされますな。オタクだなぁ、俺って。

時事問題とか流行の話題が結構多いので、同時代に読むのだとまた少し違ったはず。速報性っていうか、「いかに流行に敏感に反応するか」的な緊張感があっただろうと推測される。今読むと、ちょっと気の抜けたビール感はあります。でもまぁ大きくハズしてるトコはありません。

いたって軽ーいエッセイっぽい仕上がりなので、定価で買うにはちとしんどいかも? 2巻よりももっと長く続いてれば、それはそれで意味があったと思うんだけど。

女性的視点を獲得することがいかに難しいかということを学んだ漫画でした。多謝。

『くちびるから散弾銃』岡崎京子
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