「酉なんてさ、トリってくらいだから最後になるって決まってるようなもんだろう? 競争すりゃあ犬に勝てっこないさ」と犬。
「結構。」と酉。「そのケンカ受けて立ちやしょう。結果も出ないうちからつべこべ言うのは滑稽ってもんで。こうコケにされちゃあっしも黙ってられませんや」
こうしてコケワングランプリ2017が開催の運びとなった。どちらが先にあの山のてっぺんまでたどり着くかを競う。下馬評?は犬が圧倒的有利で、犬が途中で油断して居眠りでもしない限りは負けはない、と思われた。
「位置について、よーい」ピストルの音が鳴ると、両者は一斉に走り出した。犬は矢のように走る。酉は、バタバタと駆け出したかと思うと、そのまま、なめらかに飛び立った。会場はどよめく。これまで誰一人、酉が飛ぶのを見たことがなかったのだ。犬もあっけにとられて空を見上げた。
犬は全力で走り、自己ベストを更新する勢いだったものの、曲がりくねる峠道ではいかにも分が悪かった。鮮やかに宙を舞い、酉は一直線に頂上に降り立った。
遅れることしばらく、犬は息を切らしながら頂上にたどり着き、開口一番言った。「お前、飛べたのか」
「そのようで」と酉は答えた。「あっしも飛んだことはなかったんで。ただ、どうしても勝たなくちゃ、と思ったら夢中で飛んでたんでさ」
この勝利を記念し、2017年は「飛躍の年」と呼ばれる。願わくは、この物語を受け取った人にも飛躍あらんことを。
酉の話