出来がいいだけにアラが目立つ 『バケモノの子』感想文

『バケモノの子』を視聴したので感想。

あらすじ

バケモノの子として生まれた少年は蔑まれて過ごすコンプレックスを跳ね返し、立派な大人への階段を上るのであった。

……というステレオタイプを想起させられるタイトルだけれど、実際は逆に「人の子として生まれた少年がバケモノの街に入り込んで養子に近い師弟関係を結び、人の子というコンプレックスを克服して成長していくお話」なのであった。

視聴中気になった点(以下ネタバレ有り)

渋谷から始まる異世界。やたらリアルな渋谷を描いているのは、身近な異世界ってことでいいのかな。

「大嫌いだ」とつぶやく謎の思念。これは後ほどの伏線なんだけど、回収されたと言っていいものかどうか……あんま回収されてなくね?

渋谷の商店街を歩く九太/蓮を街の監視カメラが映し出している。これ、九太を監視している誰かがいるんだと思ったんだけど、空振り。えっ、違うの? 何のために監視カメラ演出なの?

名前の変更。主人公の少年(この時点では名前出てない)→九太へ。これは『千と千尋の神隠し』のオマージュととられてもしょうがないなと思うんだけど、webの記事によれば黒澤映画か何かのオマージュとのこと。

ようぜん、かと思ったら「猪王山いおうぜん」が正しいらしい。わかりづらいネーミングだな……。

熊徹が振ってるのは大太刀なんだけど、ちょっと猪王山の剣と区別がつきにくい。もうちょっと猪王山の剣が短い方が、熊徹の大太刀が目立っていいと思うんだけど。

一郎彦。被り物?と思っていたらやはり伏線。というか誰も気づかないのおかしい。九太は遠目でもあんだけはっきり人だってバレてんのに。

そうしさま。宗師さま。飄々としたウサギ。でもこの人も「品格・武術」に優れてるってことなんだよな……後でWikipediaの記述を見ると「武術の達人」とある。

「胸の中の剣が大切なんだろうが!」喚き立てる熊徹。後で回収される伏線。

各地の賢者を巡って「強さとは」を尋ねて回る。あまり意味があるシーンとも思えなかった。ロードムービー的なことをしたかったのかな……。

熊徹の孤独。これは熊徹が説明下手ということをきちんと説明していて良かった。ただし「意味は自分で見つけろ」という方はあまりその後に響いてこない。

女性のビジョン。どうもお母さんらしいけど、今ひとつ納得感がない。九太の幻覚っぽい感じもする。

『白鯨』九太が選択した一冊。webでの記事によると、冒頭に『白クジラ』を読んでいるシーンがある、ということらしいのだが。

渋天街と現実とを行き来できるようになった。てっきり現実に戻って渋天街に戻れなくなるんだと思ってたんだけど。うちの娘(4歳)も渋天街のシーンになったときに「また来ちゃったの?」と不思議そうだった。

大学受験きたー。え、ここに感情移入しようとすると10〜20代がメインターゲットってことなんだろうか。

謎の思念を見つけた時に「昔の俺?」とか、割と説明的な台詞が多い。その割には、この過去の思念、特に回収も解決もされないまま。

チコの正体が気になってきた。

「鯨……」とつぶやく一郎彦がそのまま鯨を実体化させる。この実体化は結果的に、「モビーディックと戦う船長は、本当は自分と戦っていた」という楓の台詞と重ね合わせ、「一郎彦と戦う九太は、本当は自分と戦っている」というメッセージになる。一郎彦と九太は「人間である」「闇を宿している」という課題において同一であり、九太はその解決を求めていくことになる。

リア充ズルイ。女の子の手を引いて逃げるとかテメー何のご褒美だ。というか楓がついてきた意味が精神的すぎていまひとつ納得できず「なんで蓮くんの手を握って一緒に逃げてるんだろう」と言っていた楓に「結局お前、何のためについてきたんだ」と後からツッコミ入れざるを得ない。「1人で戦ってるんじゃないんだよ♪」って励ますとか「あんたなんかに負けない」とか騒いでいるだけでヒロインたりえるのか。あ、チコを救ったからいいのか。

つくもがみで剣化した熊徹が振ってくる。

「胸の中の剣」という話が現実と化すのは、いいのかどうか。あれは例え話だからいいのではないか。「胸の中の剣が大切なんだろうが!」と熊徹が喚いていたのは、本当に剣を胸に宿すという意味ではないと思うのだが。いや、まぁ師匠の魂を宿すという意味ではいいのかもしれないが、しかしそれも師匠を直接吸い込んで宿すというのは即物的すぎねーか。

最後、楓がやってきて願書を渡す辺り、ちょっと現実的過ぎてなんかヒく。

どうでもいいことなんだけど、熊徹がいなくなったのなら、順当に猪王山を宗志後継にしたらいいのでは……あ、もしかして宗師様って終身職なのか。神様にでもならないと引退できないのかなー。

所感

全体にあれこれツッコミどころが多くて、もうちょっときちんと整理したら面白い話になったのかもなー、と思う。

Webであちこち見ると、なかなか面白い意見とか、情報があった。私が気になったところは大抵、誰かが指摘していたので、やはりみんな気になるってことなんだろう。

小説版を読んだ人の記事によれば、お母さんのヴィジョンはチコの存在と結びついているとのこと。そう思って見返すと、たしかにチコ=母親を示唆する作りになってはいるみたい。うーん、それだと今度は「お母さんがチコになる」って現象の説明がなさすぎんだけどなぁ。急逝した母親はみんなチコになるわけじゃあるまいし。

説明台詞が多いのが気になった。「昔の俺?」もちょっと説明的すぎるだろ……と思うんだけど、最後の最後で「胸の中の剣を宿して、もうどんな困難でも乗り越えていけんだろう」とかちょっと説明しすぎ。もうちょい余韻に浸らせろや。

そもそも「九太の胸に足りないものがある」ってところをちゃんと描いてないので、九太の胸に剣を入れて……ってのがピンとこない。「あ、なんか足りてなかったの?」という感じ。

「一郎彦と戦う九太は、本当は自分と戦っている」という構図を作れたことは面白いと思う。ただ、一郎彦が抱えている「人間である」「闇を宿している」という課題は、九太にとっては別に課題となってないので、「一郎彦のこと、他人事とは思えない」に納得感がない。
九太は「最初から人間であることを表明している」「闇を宿しているけど(少なくとも一郎彦が発現するまでは)発現していなかった&ミサンガ見て落ち着いた」という点で、課題を解決してしまっている。この違いが「闇に飲まれてしまった一郎彦」と「闇に飲まれなかった九太」の違いを説明している一方で、「一郎彦の課題を自分ごととして解決したい九太」の納得感を削いでいる。

ということでいろいろ気になっちゃう脇が甘いアニメ。なまじ作画とかデザインがよく出来てるからこそ、つい期待値が上がっちゃうんだろうなー。

参考サイト

「バケモノの子」公式サイト

バケモノの子 – Wikipedia

バケモノの子(映画) – アニヲタWiki(仮) – アットウィキ

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