昔、自転車のレースで、自転車が止まるのを見た。衝撃的だった。
レーサー二人がサーキットトラックで争う形式のレースだった。予備走行とでもいうのか、最初に1周か2周してスタートラインを切った瞬間からレースが開始になるのだそうで、しかも理由はいまだにわからないのだけれど、先にスタートを切る方が不利だとかで、レーサーはお互い牛歩戦術をとり、相手を先行させようとしていた。
ついに一方のレーサーが、トラック上で完全に静止した。といっても足をつけることはルール上できないのだろう、足をつけずバランスを取って、傾斜のついたサーキットにとどまっている。他方ももちろん止まった。
自転車で足を付けずに停止するなんてことは考えたこともなかったので、当時の私はびっくりして、いまだに記憶に残っている。なんで相手を先行させた方が有利だったのかはいまだに理解できずにいるのだけれど。
だからというわけでもないのだけれど、自転車、特に町乗り自転車における最高のスキルとは「止まる技術」だと思っている。可能な限り低速で走ることも重要なスキルだ。緊急時にいかに止まれるか。人の間をすり抜ける時にどれだけ速度を落とせるか。ゆっくり走れない人が自転車に乗るといろいろ危険である。
娘が自転車に乗るようになったら、そういうことをこそ教えてあげたい。自転車メーカーも早いとか軽いとかだけじゃなくて、遅いとか止まるとかそういう自転車を大々的に売り込んだらいいのに。
止まれ自転車。力の限り。
止まれ自転車