『合唱ができるまで』はフランスの、とあるアマチュア合唱団の練習の模様を淡々とカメラにおさめたドキュメンタリー映画で、近くゴスペルのイベントを開催することもあり、ゴスペル執行部のメンバーと一緒に観に行った。正直なところ、内心では「この映画がもし“当たり”なら、ゴスペルイベントに利用できるかも……」といった打算があったことは否めない。
結果はどうだったかというと、執行部4人のうち、僕を除いた3人全員が上映中に眠りに落ちた(らしい)。それが特別な事例でないことは、僕らの背後で高いびきが聞こえていたことでも明らかだ。僕自身、一度は意識を失いかけた。これは眠い(笑)
にもかかわらず、僕としては面白みを感じたし、パンフレットも600円出して購入した(すぐ後悔したが)。万人にお勧めはできない。絶対にできないが、しかしマニアックな楽しみはあると思う。
以下、ネタバレ。
そもそも、僕はドキュメンタリー映画というのを初めて観たような気がする。だから他のドキュメンタリーがどうなんだかよく知らないんだけど、この映画は淡々と練習風景をおさめていく。演技は一つもないし、ナレーションさえまったく入らない。この映画には脚本はなくて、ただ記録だけがある。そういう意味では、これは“とてつもなくリアルな”ドラマだってこと。
それだけ“リアル”を追求してしまった場合、クライマックスとかオチだとかってものは期待できない。だから通常の作品のような緩急、アップダウンはないわけで、まぁ観客の75%は眠りに導かれることになる。仕方ないよね。
ただ、このフィルムに収められたモチーフは合唱団であり、本番の開演に向けた練習風景なんだよね。最初は拙く弱々しい声が、次第にまとまり、合唱として熱を帯びていく様子が、一つの“成長物語”としてのドラマ性を備えている、という気がする。
演出の面も非常に緩やかではあるけれど、全編通して次第に盛り上がるようになっている。この映画には全編BGMもナレーションもなくて、そのかわり、合唱の練習それ自体がBGM的な役割を果たすことになる。だからBGMが次第に映画の頭から終わりまでゆるやかに向上していくわけ。作品中でBGM完成していくと考えればいい。
最後のリハーサルの場面では、合唱団と演奏するオーケストラが一体になる瞬間が描かれており、ゆるやかなクライマックスを形成している。あくまでもゆるやかなものではあるけれども。
他に、さまざまな風変わりな練習方法を眺めるのも楽しかったし、フランス語を聞いたり、歌詞のラテン語に一生懸命耳を傾けるのも楽しかった。まぁあまり制作者の意図した楽しみ方ではないけれどね(笑)
面白かったのでパンフレットも買ってみたんだけれど、600円の価値はなかった。パンフレットの情報の半分以上が、チラシに乗っている情報そのままだった。まぁ、ほとんど部数が出ないだろうから、600円に抑えるだけで精一杯だったのかもしれない。もうちょっと解説を見たかったかな。