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奇妙なことに、私は中学・高校・大学とそれぞれの時代に1冊ずつ、三種の神器に出会っている。前回の『夏への扉』が中学時代であるから、次は高校時代の『ブラウン神父の知恵』を挙げるべきだろう。
『ブラウン神父』シリーズはミステリの連作短編集である。長編は1つもない。ミステリ古典の1つに挙げる人もいる。
主人公のブラウン神父は小柄なカトリックの坊さんで、ずんぐりむっくりのいかにも冴えない外見だ。シャーロック・ホームズなど多くの探偵が科学捜査に重点を置いているのに対し、ブラウン神父は人間心理の追求から真実に迫ろうとする。数知れぬ罪人の懺悔を聞いてきているブラウン神父は、誰よりも犯罪者を理解し、その罪を理解し、時にはその心に触れようとする。「罪と赦し」という非常に宗教的なテーマを取り扱っており、単なるミステリではなく、宗教に対する理解を深める意味でも読む価値があると思う。
「チェスタトンとアガサ・クリスティが、ほとんどのトリックは考え出してしまった」という人もいるくらい、奇抜で大胆な(時にはちょっと強引な)トリックが登場する点も見逃せない。「木の葉を隠すには森の中」といった言葉は、チェスタトンが考え出し、「折れた剣」という作品(『ブラウン神父の童心』収蔵)で使ったものだが、今では誰が元ネタだか分からないくらい人口に膾炙している(実際にはこの言葉には続きがあって、そこがこの作品のポイントなのだが。)。
チェスタトンについても少し紹介しておきたい。彼は19世紀末から20世紀初頭にかけて広く文筆業で活躍した人物で、シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルと同時代人である。コナン・ドイルとは友人であり、論敵でもあった。
非常に論理的な人物で、人間心理の観察にも鋭い。また、宗教作家として知られている。イギリス人というのは普通イギリス国教(プロテスタントの一派)なわけだが、チェスタトンはカトリックに改宗し、その小説にも色濃く宗教色が現れている。所々顔を出すユーモアもチェスタトンらしさの1つに挙げられよう。
コナン・ドイルに対してしばしば作品中で挑戦を仕掛けており、その辺りの事情を知って読むとなかなか面白い。ドイルの同名の小説をまったく違う形でアプローチしてみせた「透明人間」など。作品中の人物が『シャーロック・ホームズ』の作品中の人物について論評するシーンなどもある。
チェスタトンは他にもたくさんの作品を残しているが、ややクセがあって手放しでオススメできるものは少ない。私は『詩人と狂人たち』とか好きなんだけど。むしろ論説集とかの方が面白いのかもしれない。
チェスタトンは、私のお粗末な卒論のテーマでもある。ああ、そのことは思い出したくないな……。
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※Solitairescope:『ブラウン神父』シリーズ G・K・チェスタトン – livedoor Blog(ブログ)より転載。