人気DJの絶望と復活を描いた作品。全体のトーンは明るくさらっとしていて重くなく、見やすい。全体に中途半端な造りではあるけども、見終わってなんとなくさっぱりと楽しい気持ちになれる。好感の持てる映画。
以下ネタバレ。
人気DJのフランキー・ワイルドは人気の絶頂から突如、聴覚に異常をきたし、どん底に落ち込んで行く。その彼が立ち直っていく様子を描いている。
ま、ストーリーは単純なんだけど。
全体に、DJに関する知識があった方が楽しめる。クラヴシーンなんかもそうだし、DJの仕事(左右のターンテーブルの操作)も、左右のテンポを合わせてフェーダーをスイッチして……みたいなことを知らないと、ちょっと分かりづらい。また、フェイク・ドキュメンタリーという形で、さまざまな人物が“伝説のDJ”フランキー・ワイルドについて語るシーンが挿入されているんだけど、そこに実在の有名DJも参加しているということで、DJについて詳しい人ならたぶんより楽しめる。
主役のポール・ケイ(Paul Kaye)はイギリスの俳優/コメディアンだそうで、これまで映画で取り立ててめざましい役はないみたい。この映画では割といい演技をしていて、フランキー・ワイルドの実在感みたいなものができていたと思う。そこここにちょっとユーモラスなシーンがあって、そういうトコもこの映画の持ち味に貢献している。
麻薬中毒から立ち直ろうとするシーンにだけ、幻覚的な演出があり、そこがちょっと浮いた感じはある。ま、でもあまりヤク中についてリアルな演出をすると、本筋から離れて“ヤク中更正映画”になっちゃうので、それを避けたかったってことなのかなぁ。
原題は“It’s All Gone Pete Tong”。Pete Tongは実在のDJの名前。Cockney English(ロンドンの下町訛り)では「Wrong」と韻を踏むことから「Wrong」の意味で使われるらしい。つまりタイトルは「何もかもマズくなっていく」という意味。文字通りにとれば「何もかもPete Tongになっていく」ととれるわけで、DJとしての復活もそこに読み取れる……のかなぁ?
映画の途中辺り、フランキーの落ち込み具合は割と容赦ない。「この人、どこまで落ちていっちゃうだろう?」「もしかして映画の選択間違えた? クリスマスにカップルで見る映画じゃなかった?」とか心配になっちゃうほど。日本語タイトルとあのポスターの笑顔は、ハッピーエンドを予感させてくれるので、安心感はあるね。
5点中で言えば、3.5くらいかな。ちょっと時間があったら見てみてもいい感じです。