『銃』中村文則

芥川賞作家、中村文則氏のデビュー作。友人のすすめで読んだ一冊。一人の若者が偶然拾ってしまった銃によって変貌していく様を、本人の一人称で内観的に語る。
ごりごりと堅い文体なので、歯ごたえがあるものに耐えられる人向け。

以下ネタバレ


といっても本格的に論評しようと思ったら、そうとう骨が折れる作品なことは間違いなくて、うっかり足を踏み入れると、文芸評論として研究しちゃわないといけない感じ。えーと、Solitairescopeでそこまでやる気はないわけで。

一人称の小説を読む際にいつも気になるのは、その記述をどこまで信じていいのか、ということ。つまり一人称では常に主観でしか事件が語られていないわけで、客観的な要素は皆無になってしまう。この作品でもそこは重要で、主人公の言葉をどこまで信じていいのか、あるいは、客観的に見たらどういう情景なのか、そうしたことを脳内で再構築しながら、注意深く読む必要があるのだと思う。

あー、これじゃただの一般論だな。

もう少し書くと、この作品を読み終わった後に感じたことは、まさにその「再構築の必要性」だった。主人公の言葉を額面通りに受け取ると、この結末はあまりに突然であり、衝動的であり、謎のままになってしまう。でも、実際にはそうではなくて、これはやっぱり必然的な結果なのだ。この物語を理解しようとするなら、あの結末に至るまでのあらゆる経緯を注意深くたどっていく必要があって、しかしその手がかりは「主人公の主観的独白」という、非常に曖昧な手がかりしか与えられていない。「レンズを通して風景をのぞきながらレンズの歪みを調べる」といった感じの、頭痛を催しそうな作業になると思う。
でも、そこがこの作品の醍醐味だとも思うのだ。「その歪みをあばくこと」これがこの作品の楽しみ方じゃないかと思うのだが、どうだろうか。

『銃』中村文則

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