恋愛に受験は無駄です(追記あり)

息子3人を東大に入れた佐藤ママ「受験に恋愛は無駄です」 〈週刊朝日〉|dot.ドット 朝日新聞出版
まぁそりゃそうだ。恋愛に受験は無駄だしね。ただ高校生にとっては、恋愛も受験も無駄にはならないんだけど。

上記子育て論が世間で賛否両論らしい。私もこの話を聞いた時にはまず反感を覚えた。子供を全員同じ学部に入れるということは、子供の個性や感性を無視することにならんだろうか。とかこの母親は恋愛したことがないんだろうか、とか。

ただ、イチローみたいに親が仕込んで立派に育った事例もあるし、一概には言えないなぁ、とも思う。

私が至った結論としては、

  • 極論、実際の子供がどんだけ幸福になるのかは誰にもわからない
  • 徹底的に共感できない

という2点だけで、別に私が共感できないからといって、それが間違っているというわけではない。もしかしたら彼女の子供達は “lived happily ever after” なのかもしれない。ただし “lived happily ever after” に至る道はそれだけじゃないし、私は全然上記の道を選びたくないな、というだけだ。

高校の時に、私のクラスの隣の進学クラスの先生が「君たちもう部活はやめたまえ、受験に集中しなさい」という指導をしたという。ただ一人、成績トップクラスの男子生徒だけが「いえ、やめません。僕は部活と受験を両立させます」と言い張って最後まで部活をやりきり、実際、現役で東大文IIIに合格した(一方私は部活していなかったが大学受験で一浪した)。
親の恋愛不要論にさらされた子供には、こんな人材は出てくるまいな、と思う。まぁこんな傑物は、普通どうやっても出てこないので、比較すること自体が間違いなんだけど。

ところで、なんでこんな恰好のネタに『彼氏彼女の事情』第3巻の画像で反論する人がいないんだろう、と不思議だったけど、もうこの漫画もだいぶ昔か……。1997だから18年前だな。

3巻前後のあらすじ: 高校で優等生トップ2の有馬×雪野の二人が交際を始めて成績が下がったため、教師から呼び出しを受ける。「恋愛は今は不要」「将来になれば君らもわかる」と諭す教師に、主人公の雪野が切り返す。「私だってこのあいだまでそういう考えでした」「それが賢い生きかたなんだと思っていました」

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津田雅美『彼氏彼女の事情』第3巻より

2015-09-14(月)追記: かっこいい/かっこわるいという評価軸

そうだ、もう一つ、書いておきたいことがあった。それは「かっこいい/かっこわるい」という評価軸である。人生の分岐点を「良い/悪い」「賢い/賢くない」といった評価軸で判断する記事は比較的見かけるけれど、人生を「かっこいい/かっこわるい」で判断する記事はあまり見かけない気がする。主観的すぎて記事にならないのだろうか。この事例で言うと、「成績トップクラスの男子生徒」やカレカノの雪野は「かっこいい」のであり、カリスマ性を持っている。こうした評価軸って、人生において意外と重要な意味を持つと思う。

昔、バイトで編集補助のようなことをしていた職場で、新卒で入った男がいた。彼は概ね職場で「偉そうに批評したり言い訳したりしているが仕事の能力は低い」と評価されていたが、彼自身のプライドはそうした評価を頑として寄せ付けず、「仕事って人に好かれなくていいと思うんですよ」とうそぶいていた(別に嫌われる必要はないんだぜ……)。ある日、派遣の女の子が(ショートカットの可愛い子だったが)打ち合わせ中にあまりに酷いことを言われ、彼を平手打ちにした。彼は「僕を殴っていいんですか。ということは僕もあなたを殴っていいんですね」と騒ぎたてた。私はその時後ろで黙って仕事していたが、今はこれを後悔している。立ち上がってこう言うべきだったのだ。「君が言っていることはとても正しい。だが、とてもかっこわるい」と(そうしたら、その女の子ともう少し仲良くなれたかもしれない)。たしかに暴力は良くない。彼は正しい。ただ、とてもかっこわるい。彼のことをかっこいいと思う人はたぶんいないだろう。

佐藤ママの件は、これが「母親に人生をコントロールされた高校生」「母親に言われて恋愛をしなかった高校生」という切り取られ方をした時点でもう「かっこわるい」確定であり、人気が出ない。叩かれても仕方がない。そういう意味では、母親がメディアに露出して賢しげに自慢を始めた時点で子供の「かっこわるい」が確定したわけで、その意味で子供は被害者でありカワイソウである。

もちろん「かっこいい/かっこわるい」は印象論に過ぎないので、切り取り方次第でころころ変わる。もしこれが、本人がメディアに登場し「大学受験のために恋愛を諦めました。それほど大学で学びたいことがあるんです!」と言い切ったなら、少し印象が変わって「かっこ悪い」とは言われずに済んだであろう(島本和彦『逆境ナイン』では野球のために恋愛を捨てる「二者択一」の葛藤がかっこよく描かれている)。

でも、今の「母親が息子をコントロールして成果を出しました」では、悪印象はぬぐえないだろうなぁ。

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